LABORATORY


12

デザイナーが選ぶ写真の基準

デザイン業務ではクライアントからオリエンをもらい、それをもとに情報を整理し、デザイナーは伝えるべき情報と押さえておくべき情報の優劣をつけ、読み手(消費者)に素早く分かりやすく伝える為に文字や写真をレイアウトしながらデザインしていきます。

伝えたい内容を再構成し組立・レイアウトしてゆく過程の中で、デザイナーは伝えたい情報をどのように伝えるべきかを考えるわけですが、写真またはビジュアルは紙面上大きな割合を占める場合が多く、見る人への印象を大きく左右するものになります。そのため写真選び・制作はとても重要な役割を担っています。

弊社の場合、オリエンを頂いてから資料の中から軸となるキーワードを抽出し、いくつかのムードボードを用意します。このボードは数枚の写真と端的なワードで構成され、その案件の向かう方向性をクライアントと共有するものになります。

撮影前提の場合は別ですが、撮影無しで写真・ビジュアルを用意する場合には商用利用可能な写真を使用することになります。商用利用可能な写真には大きく2種類あり、①フリーストックフォトと、②ストックフォトになります。

①フリーストックフォトとは

このフリーストックフォトについて語る前に著作権やCCライセンスに関して触れておく必要があります。CCライセンスとは、インターネット時代の為にできた新しい著作権ルールで、「条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示するためのツールになります。CCライセンスを利用することで、作者(フォトグラファー)は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、使用者はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることができます。

CCライセンスは下記のように上(パブリックドメイン)下(© All rights reserved)の状態の中間に存在しています。

上記に挙げたように、フリーストックフォトの全てがPD(パブリックドメイン)という訳ではありません。無料で配布してるからといって自由に使える訳ではなく、ライセンスのレベルによって使用できる範囲や使用方法が異なるので、使用する際は利用規約や注意事項などをよく読む必要があります。またこの部分に関しても注意が必要なのですが、フォトグラファーの作品には著作権がありますが、そこに写っている人(モデルリリース)やモノ・建物(プロパティリリース)に対する肖像権に関して、その許諾を得ていなかったりその有無が掲載されていない場合も多々あるので、その点についても使用する際には確認するなど注意が必要になります。

②ストックフォトとは

ストックフォトは世界中のフォトグラファー達がストックフォトサービスを利用して写真販売を行っているサイトになります。このサービスにはRF(ロイヤリティフリー)とRM(ライツマネージメント)の2種類があり、RFの場合は1度購入すれば規約の範囲内であれば自由に使用が可能になります。RMの場合は媒体の種類や数、使用年数などによって金額が変動します。写真の良さで言えばRMの方が良い写真が多いのですが、都度更新料がかかってくるので少しハードルが高いといえるでしょう。その他にも出版や報道・教育向けでの使用のみ許されている写真もあります。

先ほど述べたように、ストックフォトの写真の中にも肖像権の許諾が得られていないものや有無が曖昧な場合があるので、サービス側に許諾の有無を問合せすることをお勧めします。得られていない場合は、サービス側に許諾を取ってもらうよう問い合わせることも可能です。(すべての肖像権に関して確実に許諾が下りる訳ではありません。)

ストックフォト・レンポジサービスとして主なものは下記のようなものがあります。

カンプについて

デザイン業界では、クライアントにデザイン提案する際カンプというデザイン完成イメージのサンプルを用意します。この時、写真などのビジュアル要素はあくまでも完成イメージなので、(カンプの為に仮撮影を行う場合を別として)公にしてはまずい状態であることが多々あります(守秘義務の観点から言えば、カンプ段階のものが漏洩すること自体まずい訳ですが…)。最終的には世の中に出しても問題がない写真・ビジュアルを用意するわけですが、この過程において使用する写真・ビジュアルには細心の注意が必要となります。

デザイナーが選ぶ写真の基準

クライアントから求められているお題に対してデザイナーがカンプを準備する際、写真素材をセレクトする時の主な基準としては下記のようなものがあります。

①構図
②表情・しずる感
③ライティング
④画角
⑤生っぽくない
⑥解像感・絵力

①構図

媒体を問わず紙面構成する際、必ずと言って良いほど文字要素が写真の上に載っかってきます。この文字要素に合わせ写真をトリミングし配置することになります。写真をよく見せる為に文字を小さく配置する場合もありますが、大きく文字をレイアウトする場合もあり、また他のページとのバランスを見ながらデザイナーは紙面を作っていきます。そのため色々なサイトでも書かれていますが、写真の良し悪しの1つに写真の構図が関係してきます。構図の例として、以下のようなものがあります。

②表情・しずる感

人物写真の場合、構図に加えてポーズや顔の向き・角度の他に表情も重要なポイントになります。人物のポーズが良くても表情がベストではない・表情は素敵だけど画角が狭い場合には、複数の写真を使って1枚の写真に仕上げる場合もあります。

食べ物の写真の場合、美味しそうに見える構図、アングルの他に色味や水々しさや熱さ・湯気なども重要なポイントです。構図は良いけどしずる感が足りない場合、写真を加工ししずる表現を足す場合があります。その場合水や湯気など別の写真をベースの写真に合成する事になります。

③ライティング

ストックフォトにアップされている写真はフォトグラファーが撮影した作品なので、ライティングに関しては基本的に問題ありません。しかし、複数枚の写真を使用して1つの写真に仕上げる場合、光の向きが同じである必要があります。光の向きが別々のものを組みあせていないと整合性が取れず、不快な写真になってしまいます。

④画角

ストックフォトでよくある事なのですが、いくら良い写真でも画角が狭いと使えない場合があります。紙面に縦位置で使用する場合、横位置の写真だと上下が足りなかったり、横位置で使用する場合、縦位置の写真だと左右が足りないなど。逆にそれぞれトリミングいっぱいに使用すると画角的に寄りすぎてしまう場合もあります。写真によっては足りない部分を補うために写真加工をして伸ばしたり、他の写真と合成することで画角を広げる事もあります。しかし写真によっては事実と異なることがNGな場合もあるので、そういった場合には他の写真を探すか、予算がある場合には写真を撮り直す or CGで起こすなどの対応となります。

⑤生っぽくない

デザイン業界では、よく耳にする「生っぽい」というワード。これは色味などのトーンが実際肉眼で見ているような感じがする。といった言葉で言い表されており、ネガティブな言葉として表現されます。フォトグラファー達は撮った写真をそのまま公開することはなく、様々な調整(現像)を行なってから世の中に出しています。ストックフォトでこの言葉が使われる場合、多くの写真はアジア系の人物が写っている事が多いです。室内で食事している風景や家族団欒な風景、ポートレイト写真など、スタジオっぽさ(嘘臭さ)が滲み出ている写真は好まれません。

⑥解像感・絵力

ストックフォトの場合、写真サイズに関しては特に注意することはありませんが、フルサイズや中判カメラで撮られた写真は、それ以下のカメラで撮られた写真と違い細かいディテールまでしっかりと映し出されています。ライティングによっても絵力は強くなりますが、それらが甘い写真は迫力に欠けてしまい、紙面構成する際に目を引く写真として物足りなさを感じる場合があります。

デザイナーはキーワードや想像力を頼りに膨大な数の写真の中から感覚的に、時にエシカルにセレクトし、吟味しながら1つのビジュアル、1つのデザインを作り上げています。

BACK