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デザイナー2.0への機能拡張〜サービスや商品企画のアイデアの出し方

今日は「デザイナーの機能拡張」に直結するアイデアの出し方についてまとめてみようと思います。

みなさんご存知のように今日のデザインの領域は随分と広がりましたよね。「グラフィックデザイン」「インダストリアルデザイン」「インタラクションデザイン」、さらには人の活動に関わる社会的な仕組みをデザインする「システムデザイン」にまで。今やあらゆるものをデザインする時代になっています。

「デザイン」が価値を発揮できるする領域が広がったいま、デザイナーに期待される役割も「表現しかたちづくるデザイン」の職人的な役割だけには収まらなくなっています。というのもデザイナーの発想プロセスに着目した「デザイン思考」の盛り上がりに見るように、デザインにおける「思考法」つまり「考え方」というのは社会的に汎用性が高いことが分かっていて、このままデザイナーが表現の範囲に留まるもよし、思考法を発展させ、会社内や社会での役割を拡張していこうと思うのかは、本人次第という状況にあると僕は思っています。そしてこのデザインの進化に伴い、デザイナー2.0と言える『非美術大学卒』のデザイナーの活躍はこのデザインの役割の拡張の裏付けであると僕は考えています。

僕は「職人技の追求」と「デザイナーの機能拡張」こそ我が人生のテーマにしているので、デザイン思考の流行をきっかけに改めて「思考法」の深掘りをここ数年のテーマにしていました。そこで巡り合ったのが、i.schoolというプログラム。東京大学の名誉教授でいらっしゃる堀井秀之先生が破壊的なイノベーションを起こすアイデア発想法を研究し始められたプログラム。(詳細な成り立ちは省略)グランドデザイン社として、スポンサー企業として参加させて貰い、同時に1年間を通して僕がワークショップに参加しながら学生と共に学んだ思考法は、デザイン思考を超える応用性の高い思考法が網羅されていると思いました。

そこで今日は「デザイナーの機能拡張」に繋がりえるアイデア出しの『六つの型』のご紹介と、その型を利用する利点についてご紹介します。
でもまず最初に認識しておいて頂きたいのは、これらは表現アイデアを考えるための型ではありません。表現アイデアを考えるスキルを活かした「事業・サービス」アイデアの考え方と覚えてください。なので、1.0のデザイナーがこの思考法に移行するのは負荷が低いはずです。それでも表現の範囲に留まろうと思うデザイナーには不要ですが、その範囲を出てクライアント課題に向き合おうと思っている人には有用です。

とは言え一年のプログラム。一回のnoteで書き切れる内容ではありません。従って今回はそれぞれの型の詳細までは踏み込まず、それぞれの型の概要紹介に留めておき、改めて僕の理解が深まったら詳細に踏み込むつもりです。因みにこれはボクの解釈であって、堀井秀之教授によるものではありません。ちゃんと学びたい人は、i.schoolで学んでください。
前置きが長くなりましたが、始めます。

1:エクストリームユーザーアプローチの型

(今より未来にフィットする特殊な人からニーズを探り当てるアプローチ)
未来起こるべき変化は既に予見されています。日本が高齢化社会になることや世界中で環境問題や水不足が世界の大問題になることなど、避けられない未来がたくさんあり、その予兆となるものは現在にも存在します。これと同じことは人にも言えます。大きな社会変化の中で、現在はマイノリティであっても未来に増えそう、活躍しそうなタイプの人(=エクストリームユーザー)が存在します。例えば、数十年前の常識に囚われない新しい働き方をする人や生き方をしている「ファーストペンギン」を探し出します。そしてそんな人が増えていくことが、我々の社会や人間にとって良いものであるならば、その人が必要とする『ニーズ』の仮説を立て、そこからサービスや事業を編み出していくという手法です。過去の常識に囚われず、最初に海に飛び込んだペンギンにとって重要となるモノやこと、サービスは何か?という風に想像を膨らませてみてください。色んなニーズがありそうじゃないですか?これが社会課題解決の方を向いた、人間中心のイノベーションの代名詞的な手法なのかなと思っています。ここでポイントとなるのは未来への避け難い変化を前提とした未来シナリオ」をいくつも持っているということになると思います。

2:アナロジー思考アプローチの型

(例えば、Aが、Bだったらアプローチ)
アイデア出しの上手い人はこのアナロジー思考が得意な人が多いですね。例え話しというやつです。先に述べたエクストリームユーザーをファーストペンギンに例えるのもアナロジーですが、以下にご紹介する手法は、世の中でうまくいっている仕組みを他ジャンルで応用するというものです。
例えばアマゾンのリコメンド機能はECの標準機能になったし、「俺のイタリアン」のビジネスモデルは外食産業で多くの類似プレーヤーを生み出しました。でもそれらは同業態で行えば「パクリ」ですけど、別業態に持っていけばイノベーションとなり得ます。もしアマゾンが回転寿司屋を買収したら、顧客が如何にスムーズに食べたい寿司に辿り着くかのカスタマージャーニーを磨き抜くはずだし、当然の帰結として予約から寿司のオーダーまでデジタル化し、座席の滞留時間の短縮化=回転率アップ、ネタの仕入れにもAI導入するような「くら寿司」が出来上がります。くら寿司はアナロジー思考の勝利者であって、パクリ者の汚名は着ぬはずです。このようにうまくいっている型を見つけ自社サービスに応用するのがアナロジー思考型です。この時にポイントとなるのは社会実装されている「うまく行ってる事例」を少しでも多く持つこととなります。

3:バイアスブレーキングアプローチの型

(天の邪鬼な俺なら逆を行くよね、アプローチ)
バイアスブレーキングの型は、世界一稼いでいると言われるビジネスコンサルタント、濱口秀司さんの得意な型です。濱口さん曰く「デザイン思考」はモノゴトの「改善・改良」のための手段であり、破壊的と言えるイノベーションは生まないと断言されています。その理由は「既存のニーズ」の深掘りからスタートし、アイデアを考え、企画の選択(フレームワーク)によってプロセスが終了するデザイン思考に対し、バイアスブレイキング手法では、その逆のプロセス、最初にフレームワークでバイアスブレイクを行ったのち、企画をし、最後に「未来のニーズ」を導き出す。つまり、両プロセスの違いは手順のみならず寄って立つ場所が「現在のニーズ」か「未来のニーズ」かで大きく違っている。結果、デザイン思考が、改善・改良=消極的イノベーションであるのに対しバイアスブレイキング手法は、未来ニーズに立脚した、商品やサービスの置き換えを生み出す破壊的イノベーションであると言えます。
さらに彼は企業活動における、ユーザーエクスペリエンス、テクノロジー、ファイナンス全ての階層でバイアスブレイクを行うのが、彼がトップビジネスコンサルタントである所以であり、まさに誰もが真似できるレベルではありません。とは言え何としても習得しておきたい思考法です。この手法で重要となるのはその都度作り出す「フレームワーク」です。ここを間違えるとトンチンカンな方向に行ってしまうので注意が必要です。

4:未来探索アプローチの型

未来は突然やってくるモノではなく必ず予兆があると話しました。毎日いろんな種類の事件や事故があり、日進月歩でテクノロジーは進化を続けていて、気候は僅かに変動し続けています。それらは大河の流れのように大きなものもあれば、せせらぎのように小さい流れもあり、時と共に合流したり分岐したりを繰り返します。そういった大きな流れは誰しも無意識に肌で感じていると思いますが、一方で突然現れたように見える「破壊的な変化」が増えてきているのがデジタル化が進む現代です。それはアナログ時代にはあり得ないような指数関数的な変化が特徴で、あっという間に席巻し多くの人の意識を変えていきます。独裁国家が情報の制限に神経を尖らせるのはそのせいですよね、無理もありません。自分の未来が運次第で良いと割り切れる人が世の中にどれだけいるでしょう?こういった未来の予兆を整理し、直線的な未来予測に留まらない、指数関数的な変化を含む未来探索を基盤にサービスアイデアを組み立てていくアプローチです。

以降2つの型は、ボクがi.schoolで受講していない型なので、詳しくはありません。それでもi.school以前に知っていた範囲で説明します。

5:ニーズ×テクノロジーアプローチの型

20世紀の製品開発はテクノロジードリブン型、つまり新しい技術を使って製品を考えることが主流でした。でもそうやって作られた製品は根本となる技術が特許で保護しても、あっという間に類似技術が現れ、コモディティー化します。そこで似通った機能の製品ながらも、デザインによる差別化で乗り切ってきていたのが前世代まで。でもついにそんな時代も幕を閉じました。
「ニーズ×テクノロジーアプローチの型」とはつまりその逆、人が次に必要とするモノの仮説をたて、それに要する技術を開発していくことと言えます。テクノロジードリブンならぬ、未来ニーズドリブン。ボクは技術の専門ではないのでこれがいかにイノベーティブな転換なのか、そのインパクト度合いを知る術もありませんが、とてもまっとうなことに思えます。つまりドラえもんの道具(=できたらいいな)を実現するテクノロジーを逆算で発想するようなものですね。そう考えたら初代i.Pod、i.Phoneはこの五の型の最初の成功事例なのかもしれません。スティーブジョブスはマーケティング嫌いで有名でしたが、この型は人間の無限の想像力をテクノロジーで現実にしていく発想法ですね。

6:エスノグラフィックアプローチの型

エスノグラフィとは行動観察のことをいい、古くは民俗学、最近ではリサーチなどで使われてきた用語です。ただ一般的なリサーチと違うのは今やお客さんを集めてインタビューして購入意向が高いからと言って、市場投入してそれがそのままの売れ方をするとは誰も思っていません。世の中の情報量は指数関数的に増え続けていて市場環境の変化も早いので、消費者がなぜそれを買ったのか、買わなかったのかを言語化することは非常に困難になっています。従ってエスノグラフィックアプローチでは消費者の行動観察から「未来ニーズ」を探索していきます。具体的には、実際の使われ方、ユーザーなりの使い方の工夫から、商品の改善点やユーザーにとってのベネフィットを発見し、生活文脈の中で商品やカテゴリーがもたらす意味、価値を見つめ、顕在化してないニーズを抽出します。昔、ポケベルが女子高生の中で流行りましたけれど、あれはNTTの開発者が想定していなかった「まちがった」使われ方でしたが、それによってポケベルが普及したという事実があります。どんな人の脳内より現実の方が多様ですから、想定外の売れ方というのはたまにあって、というより爆発的に売れるというのは必ず想定外を含んでいると言ってもよく、その想定外の「未来ニーズ(まちがった使われ方)」を発想するアプローチだと理解しています。

(以下参考)

これらの型を利用する利点

これらの型は基本、複数人が参加するワークショップ(以下WS)形式で行います。これまでのアイデア出しは個人が自分の脳内で仮説を設定しながら壁打ちし、生み出したものをたくさん集めて、最後に熟練者によるフレームワークの中で正解を探すというものでした。しかし以上の型ではその発想法のプロセスが数段階に分解されており、その各段階ごとにWS参加者がアイデアを出していくので、個人より圧倒的に豊富な視点を取り込むことができ、最終段階では熟練者ですら想像しなかった「斜め上の答え」にたどり着くことが珍しくありません。
一方、今までのデザイン会社ならスタッフがアイデアを100案持ち寄っても、代表が最後に出した1案で決まるなんてことが『あの人すごい伝説』のように語り継がれていましたが、そんなのそのスタッフの100案はただのアイデア出しの練習だったのか?ということになります。でも実はスタッフの100案は代表のバイアスブレイク発想の叩き台になっているというのが真実じゃないかなと僕は思うわけです。(僕の経験的にも)
だからアイデア出しを初めから上記ツールを使ったワークショップ化することで、代表の自己満足度は減るものの全体の生産性は上がり、若者もアイデア出しの中で活躍できる仕組みが出来上がります。

長くなりましたが、今日はここまで。あなたの機構拡張の一助になれば幸いです。

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