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ビジネスに効率化をもたらすブランドガイドラインの基本構造

ブランドガイドラインの有用性

企業や事業、プロダクトの情報を運用するためのブランドガイドラインは、効率化をするうえでとても重要なものです。昨年からはリモートワークで分業化が進み、働き方も大きく変わってきています。いままでは属人化していた知見を社内外に均一に共有することは、多くの企業が直面している課題でもあります。今回はその課題解決のひとつとして、ブランドガイドラインを紹介します。

業務において対面による知見の共有が難しいなか、誰にでもわかる形で企業のブランド運用ガイドラインを残して、運用していくことは、オペレーションや社内教育、社外への発注物へのクオリティーの管理などの「ビジネスの効率化」をもたらします。

しかし、日本においてブランドガイドラインは、直接売り上げには関わらないものと思われている傾向があります。その理由として日系企業は「ブランディング」に対して予算をとることが難しく、経営層が意欲的に取り組まない限り、多くの日系企業では疎かにされがちです。しかし「ビジネスの効率化」という観点からは、ブランドガイドとまではいかないにせよ、簡易的なロゴマニュアルなどを使っている企業は多くあると感じています。今回はそういった状況を踏まえた上で、ブランドガイドラインの基本構造について紹介していきたいと思います。

予算のあるグローバル企業では、ブランドコンサルの採用や自社の運用チームの立ち上げなど、時間とコストをかけてブランドを構築していくことが可能ですが、実際にはリソースが限られていおり、欧米企業と同じように構築していくことは難しいのではないかと思います。そこで今回はそういった専門のブランドチームが組めなくてもブランドガイドに必要な基本的な構造がわかるように「ブランドガイドの事例」から項目を洗い出し、それぞれのサービスやプロダクトにあったガイドライン項目を選択していく方法をとっています。

参照した企業、プロダクトのブランドガイド事例の一部

ブランドガイドラインの2つの柱

多くのガイドラインの事例から分析した結果、企業やプロダクトごとにはそれぞれ比重が異なってはいますが、ブランドのストーリーを伝える「ブランド・アイデンティティ」、そしてブランドの資産を明示する「ビジュアル・アイデンティティ」の2つによって構成されています。(日本企業ではロゴマークやタグラインを使用する際の規定をガイドラインとして使用している場合がありますが、その多くはビジュアル・アイデンティティの一部に含まれます)

ブランド・アイデンティティの構成要素(参照:コカ・コーラのブランドガイドより)
ビジュアル・アイデンティティの構成要素(参照:ハイネケンのブランドガイドより)

上記はあくまで一例にすぎませんが、いくつかのブランドガイドの事例を参照した結果、多くを網羅していた代表的なブランドガイドをベンチマークとして基本構造を抽出しました。これをもとに企業やプロダクトにあてはめることで、ガイドラインの骨子として考えていくことができます。(内容については、ブランド独自の情報を整理する必要があります)

そして一番重要なのは、一度ガイドラインを作って終わりではなく、それを運用していくことがブランドガイドラインにおいて最も重要です。例えば営業資料作成の機会が多い場合には、PowerPointのフォーマットデザインを新たに作成して追加したり、状況に応じて使いやすいように改訂していく必要があります。

誰に向けたガイドラインなのかを明確にする

ブランドに関わる人が多くなるにつれて、必要最小限でわかりやすいガイドラインが求められてきます。デザインリテラシーを必要としない、汎用性のあるものが必要になってきます。例えば制定書体においては、非デザイナーが扱うことも考慮したうえでwindowsPCにプリインストールされている代替書体「alternate font」を設定するなど、使う人の立場に寄り添ったガイドラインが重要になっていきます。(例えばHelveticaを制定書体にした場合、代替書体はWindowsOSにプリインストールされているArialを指定するなど)

Branding is what people say about you when you’re not in the room.

ブランドとは、あなたが部屋にいないときに人々があなたについて語ること(アマゾン創業者 ジェフ・ベゾス)

ブランドについての言葉ですが、これはガイドラインにも言えることだと思います。ブランドを定義づけるガイドラインが明確であれば、ブランドが一人歩きした場合にも、関わる別の誰かがブランドについて正しく語ることができます。ビジネス書やニュースなどで目にするGAFAのような欧米IT企業のブランド事例は、専門のチームが運用しているため完成度の高いものが多いです。しかし、すべてにおいて大企業的なブランド事例があてはあるとは思えません。

企業やプロダクトごとにブランドの「らしさ」はひとつひとつ異なります。その「らしさ」を引き出すために、丁寧なヒアリングを重ねて、ブランドの本質を見極めていくことが、我々のようなクリエイティブ・ラボに今求められているのではないかと思ってます。

参考書籍:
・ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと

・ブランディング・ファースト―広告費をかける前に「ブランド」をつくる

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