LABORATORY


25

中国パッケージデザイナーの勢いが止まらない。

 

デザインのうまい国民性はあるか。

僕はデザインの上手い「国民性」ってあると思っていた。グラフィックデザインでいえば、まずイギリスと日本は雌雄を分ける存在。その他なら、ドイツとアメリカも目が離せない。プロダクトデザインであれば雌雄を分けるのはイタリアにドイツだろうか。北欧、アメリカも優れている。建築は詳しくないが、日本はデザインの上手な国に入れるのではないか。いずれにせよ「20世紀のいいデザイン」はほとんどこれらの国から生まれたといっていいのだから、誰も否定できないだろう。

「必要があれば」デザインは必ず育つのだと知った。

しかし近年のデザインアワードを見ている人なら誰もが知るように、中国の勢いが止まらない。僕の知る範囲で中国勢がアワードに顔を出し始めたのは10年前。でもその中身は、中国商品であっても、制作者は欧米や日本人が作っているケースばかりであった。(僕らも何回かその恩恵を賜っている)しかし近年、その思い込みは覆されつつある。

パッケージのグローバルアワード「Pentawards」を例にとれば、21年で2つのプラチナを中国勢が獲得した。上の『NICE CREAM』のデザインに中国らしさは全くなく(どうだろう、そう思わないか?)、最初僕は日本人の誰かがデザインしたものと思った。しかし調べてみるとHan Gaoという上海にいる中国人であると知り衝撃を受けた。NICE CREAMというネーミングの秀逸さと、オープンで口説くない表現に王道感すら漂う。ありそうでなかった新規性もあり、売れそうないいデザインだと思った。いずれ大卡のアイコンとなる商品にさえ育つのではないかと思う。Han Gaoいいデザイナーだ。



 





 

次の『吃肉』はまさに中国人的なユーモアでプラチナを獲得している。最初の『NICE CREAM』はグローバルなデザインに対し『吃肉』は中国オリジナルの世界観を持ったデザインだ。僕はこの2種の違うデザインでプラチナを獲得した事で、中国人デザイナーはいよいよグローバルデビューを果たしたのではないかと感じた。そしてそれがこの記事を書こうと思った動機でもある。

上記Pentawardsを舞台とすれば、この10年で中国勢は最大派閥となった。誰もが想像できるのは市場が日本の10倍あり(実際は7倍ほどか?)圧倒的な新商品開発数の多さが背景にある。しかしそれより僕が大事だと思うのは、彼らの「新しい定番」を作ろうとする熱量の高さなのではないかと思っている。20世紀とは変わって、いま商品開発のハードルは随分下がった。このチャンスに中国では自社ブランドを持ちたいと思う経営者が雨後のタケノコのように生まれている。それも個人レベルでだ。そしてこの環境下で中国にいるデザイナー達はトライアンドエラーを繰り返している。それは当然クオリティの上昇にも繋がる。正直に告白しよう。僕は多くの中国人はデザインがあまり上手くないと思い込んでいたが、完全に間違っていた。機会さえあれば必ずスターは現れるのだと。

一方、三大デザイン賞であるred dot awardを見れば、台湾も非常に目立つ。但しパッケージデザインでの受賞は非常に少ない。人口を見れば当然だ。企業もデザイナーもそこに大きなエネルギーをさけない事が想像できる。台湾に旅行したことのある人なら知っていると思うが、割と日本的な湿度の高い情緒を好み、雑貨が好きだ。red dot を見ても、書籍やステーショナリーなどアナログなデザインで多くの受賞をしている。


 



 
以上が中国勢として、韓国も負けてはいない。21年のPentawardsで見かけた以下のデザインは韓国人デザイナーによるもので、割と日本的情緒を表現していて面白いと思った。同じようなことを欧州のデザイナーがやっても、黄色の斑点や文字をここまで緩い手書きにはしなかったのではないか?縦組みの文字を持った国のデザインなのだと思う。隣国とこうやって共有できる情緒があるのは嬉しく親しみが湧く。一方昨年red dotで受賞していた以下のビールは、たぶん日本人はデザインしないけど面白いデザインだ。酒類に関する表現の規制が日本が強いのも理由だが、クライアントも感覚的に受け入れないだろう。韓国とはこのギャップが面白い。1年経ってこの商品が本当に売れているのか(残っているのか)確認しに行きたくなる。いいデザインが売れるとは限らないからね。



 



 

次はPantawardで見つけたベトナムのデザインオフィスによるパッケージデザインだ。ベトナムをアワードで見かける機会はまだまだ少ない。この1作品からベトナムのデザインを語ることはできないけれど、このデザインが目指しているものは共感できる。Instagramが誕生するまで、デザインはデザイン雑誌によって世界中で共有されてきた。それがInstagramの誕生で、いいデザインは一気に世界中で共有され始めた。これは20世紀にいいデザイナーが一部の先進国間でだけ共有されていた状態から、その他の国でもスマフォさえあれば共有される状態になったことと無縁ではないだろう。こうやって世界中のアワードでいろんな国のデザインをみて、デザイナーの頭の中に入り込むのはとても楽しい。

ここでふと気づいた。20年前デザインアワードで見かけるのは欧米人と日本人だけだったが、いま世界中のアワード受賞者の半分近くはアジア勢が受賞するのが当たり前になっていることを。



 


デザインは衰退もするものであるのだと知る



試しやすかったので、気になっていたことをred dot awardで調べてみた。その結果、衝撃的な結果を知る羽目になった。ここ数年、red dotにおいては日本のデザインの受賞数は台湾より少なく(!)韓国をわずかに上回る程度しかない。そして実は中国の1/3しかない。この事実を僕はどう理解したらいいのだろうか?台湾の人口は日本の1/6。韓国の人口は日本の2/3しかない。分かりやすく比率で言えば、中国=30、台湾=12、日本=10、韓国=9。(red dotに限ったことだけど)いま日本は台頭するアジアの1プレーヤーにまで成り下がっている。

もちろん日本には東京ADCや東京TDC、JAGDA、ACCなど多くのデザイン賞、広告賞がある。そして日本で人気の海外コンペの代表はカンヌライオンだ。このように日本には国内に多くのデザイン賞・広告賞があるのに対し、中国にもあるにはあるがプロはあまり見向きもせず既に衰退気味だ。韓国には詳しくないが、台湾にはロクなデザイン賞がないことを思えば、彼らが初めから海外で腕試しをようとしているのが逞しい。そしてこの10年間でちゃんと結果を出している。

いま商品は国境を越えようとしているのに、日本のデザイナーは国内に留まったままだ。日本人はアジアで一番デザインが上手いんだという思い込みは、こうういところから崩れていくのじゃないかと危惧している。日本には多くのアワードがあっても、80年代90年代の世界のアワードでは日本人が必ず上位を占めていた。そのことにより世界が日本のデザインの力を知ることになった。90年代から仕事をしてきた僕の目で見て、今の日本の広告の表現力の昔よりは確実に下がっている。社会から必要とされないクオリティは必ず衰退する。デザインまでそうなるのか?どんな状況になろうが、僕らは勝手に日本代表として世界で挑戦し続けたい。
BACK