LABORATORY


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資料のデザイン

広告・デザインの業界にいると、本当に多種多様な資料を見る機会に恵まれます。企画書や提案書、調査書をはじめ、レファレンス資料や香盤表、マニュアルやガイドラインほか、行き交う資料の数は本当に膨大です。仕事をする上で、どんな立場であれ、資料作成は避けては通れないものだと思います。1年生デザイナーやコピーライターから、シニアのディレクターまで、日々必ずと言っても良いほど見る、そんな資料について、お話しできたらと思います。やや深度のある内容になるかもしれませんが、どんなポジションでも使える知見としてお役に立てられたらと思っています。

自分の経験上、組織の中間的なポジションになってからというもの、上司からこっぴどく資料の書き方については訓練を受けました。対象が社内であれ、社外であれ、一字一句、より正確に、より完結に、そして己の考えを伝えるためのトレーニングでした。最初は不満や疑問だらけ、自分の資料なのだから自分の書きたいように書かせてよ!なんて思っていたかもしれません。しかしながら、その資料を使った打ち合わせや提案に臨めば臨むほど、その要点が不思議と痛いほど解ってきました。当たり前と思われるかもしれませんが、資料は書くことが目的なのではなく、その内容が確実に伝わり、誰かの行動や判断を伴わないと、全くもって意味をなさないからです。

では、僕のようにつまずかないために、経験の中で学んだ『資料をデザインする』上でのポイントを参考文献を交えてお話します。念のため最初に理りを。あくまで、これは一つの方法論でしかありませんので、『たった一つの答え』というわけではありません。あくまで『型の一つ』として捉えて頂けると幸いです。

Point 1. 企画書のトンマナ Simple & Bold

まず、一つ目の質問です。

どちらの資料の方が良いでしょうか?

絶対的な答えはなさそうだが、経験上Aを選ぶ人が大半でしょう。がしかし、実際に資料を作ってみると、Bのようになってしまっていないでしょうか。こんな原稿を書いておきながら自分も過去に何度もこの手のページは作っていて、実際何度も怒られています(苦笑)。そしてその度、こういった想いが頭を過ぎる『そこまで大きくしなくても文字は入っているし、読めるだろ』『そんなに大きくすると、あまり見た目が宜しくない…』と。ただ、極めて簡単なツッコミが入ります。大事な内容は大きくないと読めないし、大切さも伝わらない。そもそも、作っているのは企画書で、雑誌のデザインでもなければ、マニュアルのデザインではないのだと。そう、あくまで企画書は企画書なのだと。(極端かもししれないが、かのSteve Jobsのスライドは60ptで文字が使われるのだとか。)様々な資料を通して学んだ経験上、1スライドに多くても3段階の文字サイズ、20ptでもサイズはギリギリ。文字が入りきらないのであれば、文字数を短くしたり、次のスライドに移すことを考えましょう。

僕が今まで見てきた資料の中で、異彩を放つ提案書があります。それは、ほぼ全ページ1行ずつ大きな文字が入ったものでした。ある有名クリエイティブが書いた資料なので実物は記載できませんが、ページ数が途方もないものでした。

がしかし、それは意図的に『デザイン』された企画書であり、あえて型を外しているに他なりません。

とは言え、できるだけシンプルにそしてボールドになんて、皆が既にみんな認識・実践している、初歩と言ったところでしょうか。

Point 2. 根拠と主張>

続いての質問です。

資料を誰かに見せた際、あなたの意見は何なのか?結局言いたいことは何なのか?問われた経験はありますか?

文字を大きく見せたところで、あなたらしい主張がなければ、ただの説明書になってしまいます。これも僕自身がよく先輩から注意されたポイントの一つ。下の資料を見てみましょう。

どちらも同じ内容が主体となるスライドです。しかしながら、赤字の内容がそれぞれ異なっています。Aは事実の要約、Bは分析からの主張。つまり、AよりもBの内容の方が思考の階層が深いことになります。言い換えれば、Aは事実をそのまま説明しているにすぎません。Bはその事実から作成者自身の考え(主張)を論理的に反映させたスライドと言えます。つまり、(導き出す論理さえ間違えなければ)Bの方がより価値のある資料となるわけです。ここで、僕が説明するよりもはるかに分かりやすく解説されている文献を紹介します。

・外資系コンサルの資料作成術(著者:森秀明)
https://www.amazon.co.jp/外資系コンサルの資料作成術

こちらの本によれば、スライドの型は12種しかなく、どんなスライドにおいても「ロジックの3つの要素 ー 証拠(事実やデータ)・保証(証拠と主張を繋ぐ論理)・主張(伝えたいメッセージ)」が基本ということです。

念のため、前述したスライドに基本を当てはめてみたいと思います。

当時の僕がこの考え方や作り方を知っていたら、先輩から(この部分で)怒られることはなかったかもしれません。経験上、何度も指摘されたポイントなので、もし同じような経験に心当たりがあれば、是非この考えや型を試してみて欲しいです。何か違う結果が期待できるかもしれません。上記の本にもしご興味があれば、Amazon、Rakuten、古本屋等でお求めください。

ここまでの2つの意識で、あなたのスライドはシンプル伝わる、独自の思考に溢れたものになるかもしれません。

Point 3. 一人歩きする資料>

さらに質問です。

その資料は誰に向けられたものなのか?そして誰に何をして欲しいのか?

この問いもまた、何度も何度も指摘され、未だ習得できていないポイントです。業務上、提案が点数で評価されることが何度もあります。そして、長年を共にした先輩の提案書は、常々高得点を叩き出すものでした。自分の資料と何が異なるのか?ここでは(細かく説明することは出来かねるので)内容はさておき、そもそもの視点について、2点書きたいと思います。

1つ目の視点は、状況を好転させる『一つ飛ばし』のパス(昔からサッカーをしていたので、自分なりに解釈ですみません)。少し話が飛びますが、説明します。

上記はよくあるサッカーの1シーンです。左から右にパスが出るのですが、1は状況に変化が見られません。逆に2は前方にスペースが空いたため、状況が好転しています。何が言いたいかというと、常々先輩はその資料が届くであろう次の人たちに目を向けていました。つまり、担当者の奥にいる人たち。時にそれは別の担当者であり、はたまた責任者であり、さらには経営層であり…。何を資料にすべきなのか、何に対する提案が必要なのか、を奥の目線から考えることでその資料の価値、内容を向上させていたのかもしれません。担当者に向けた資料も、担当者から責任者に渡り、都度解釈され、調整されていくのですから、予見を踏まえた資料は承認されやすいのかもしれません。

2つ目は、Point 1に近い内容ですが『筋を通す』ということ。1→2、2→3、3→4、丁寧に点を線で結び、首尾一貫することです。なので、僕の先輩の資料はこれでもかというほど綿密。ページもののデザインは過去何度もやっていますが、その校正のように厳格でした。軽率に説明のない単語は使わない、誤認される可能性のある表現は避ける、同一の意味で扱う言葉は統一する、などなど意識するポイントは複数あります。そして、それが出来てくると究極人が説明しなくても分かる資料が出来上がるのです。事実、その資料たちが高得点を叩き出すシーンをいつも見てきました。いつだって理想は、口頭説明しなくても伝わるものなのかもしれません。資料は必然に一人歩きするものですから。

ここまでで、思考と配慮に富んだ資料1枚1枚を作る準備が出来上がっているはずです。ただし、資料をチームで作ったり、多くの内容が含まれるものを作りきるにはまだ大事なことが『抜けて』います。

<Point 4. 型(フレームワーク)>

最後の質問です。

資料の作成中、抜け漏れはないだろうか?と考えたことはありますか?

そもそもスケルトンを作ってからページ作成に入るからそんなことはない、でしょうか?
とはいえ、実際資料を作り始めるとそのページ1枚1枚にどうしても目が行きがち。全体が見えなくなってきて、気づいた時には時間が足りないだの、まとまってないだの、結論がブレブレなど、そんな状況になったことあると思います。実際、資料を作ったのは良いけど、構成から再修正なんてことは僕にもよくありました。ページの並び替えならまだしも、結論までズレてくるともう悲惨な状況です。そんなことにならないように、ページ作成に行く前にすり合わせた方が良い訳ですが、ある時から自分は先輩と資料を共に作る中で迷わなくなりました。それは長年共同していることでの経験や時間が作用していたこともあるのですが、2つの理由があったと思います。

1つ目は、互いの脳がシンクロする部分が増えたこと。この説明は今回のトピックとは異なるので説明しませんが、こちらの本に詳細が書いてあります。とても勉強になる本なので、ご興味があれば是非ご一読ください。

・参謀の思考法――トップに信頼されるプロフェッショナルの条件(著者:荒川詔四)
https://www.amazon.co.jp/参謀の思考法

2つ目は、共有できる型を使うこと。Chapter 2で紹介した本に記載があるように、資料全体の作成にもある程度の型があると思います。Laboratory 05で語っている分析→課題→ソリューションも鉄板かもしれませんし、僕自身アメリカオクラホマで学んだResearch Paperの書き方は、Introduction→Thesis Statement→Body (Proof)→Conclusionです。少し脱線しますが、奇しくも日本語の文体、英語の文体、それぞれに類似性が見られます。日本語の文体は、主語(S)から始まり述語(V)で終わる都合、最後まで聞かないと結論がわかりません。英語の文体は、Sの後にすぐVが来ます。よって、YES・NOの結論がより早くわかります。言葉の作りが英語に近い『中国語』を使う場合、結論を急ぐというのはもしかしたら必然なのかもしれません。

型の話に戻ります。上記2つの型は共に鉄板としても、共通項は『主張』と『保証・証拠』になるので順序がどうであれ、必要な内容は一致しています。もちろん、主張をする上で、論拠は強く、深いものでなければなりません。従って、複数の視点になります。一般的によく言われることでもあり、僕も先輩から何度言われたか分かりません。対象は、いつも同じ面を見せる月ではなく、より多角的に見ないと『見えない』と。右から見ればキレイなものも、左からみればそうでないモノあるでしょう。一方から見れば正義も、他方から見れば悪かもしれません。

そしてここまで来ると本当に先人たちの知性・知恵・合理性に感服してしまうのですが、経験上よく触れた資料には、この型にマーケティングの知見が絡みます。いわゆる3Cと言われるものです。つまりどういうことかと言うと、下記のようなイメージになります。

複数かつ必要な視点から論拠を探る視点が加わります。PEST分析と合わさって5Cと言われる場合もあるようですが、僕自身、先輩と共同する中でこの型を理解・共有できるようになったタイミングから資料作りに迷わなくなりました。何が足りない、何が欲しい、最小限の確認で資料を作ることができるようになりましたし、何より、思考する範囲が広がったと同時に方向が定まり、考えやすくなったと言えるかもしれません。

僕と同じように、もしこのような型を知っていて実践できるようになれば、今よりも複数の視点から分析ができ、より深い思考と配慮に富んだ資料をつくる準備ができるはずです。僕自身もう少し早く理解できていればという後悔もあるので、知っていて損はないはずです。

ただし、最後に改めて注意です。ここまでのポイントや意識はあくまで型でしかありませんし、これに倣えば必ず良いものになるわけでもありません。しかしながら、きっと資料をつくる上で、もしくは自身の考えを整理する上で役に立つ知見になるでしょう。最後にもう一度ポイントをおさらいします。

☑︎ Point 1. 企画書のトンマナ Simple & Bold

☑︎ Point 2. 根拠と提案

☑︎ Point 3. 一人歩きする資料

☑︎ Point 4. 型(フレームワーク)



これらを上手く活用し資料を『デザイン』できるかは、あなた次第です。僕もまた先輩から注意の赤字が入らないよう、精進したいと思います。

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