LABORATORY


16

レタッチ(現像)イロハ

写真はデザインの現場において大きな役割を担っています。しかし、それと同時に撮影の現場では多くのことが求められます。

ロケーション・構図・画角・モデル・ヘアメイク・スタイリング・ライティング、そしてレタッチ(現像)など。これら全てを理解した上でディレクションやデザインをしていくと、仕上がりに歴然とした差が出てきます。

今回は、その中のレタッチ(現像)についてご紹介していきたいと思います。

RAWとJPEGの違い

RAWとJPEGの違いについて皆さんはどのくらいご存知でしょうか?その違いは情報量の差にあります。RAWはカメラのレンズから入ってきた光の情報(データ)を未加工のままメディアに記憶させます。一方JPEGはレンズから入ってきた光の情報をカメラ内で画像ファイルとして変換させたものになります。

RAWの色情報は14bitの場合だと約4兆4千万色あり、人間が認識できる色はそのうちの0.00025%(10億)程度といわれています。Appleが売り出しているPro Display XDRも10億色程度なのですが、RAWがいかに色情報量のデータか分かっていただけるのではないでしょうか。データのサイズも写真1枚あたり100MB以上になる場合もあり、RAWをWEBやiPhoneでそのまま表示することは出来ないので使い勝手が悪いと言えます。

JPEGの色情報は8bitで約1600万色になりますが、RAWと比較するとだいぶ情報量が少ない事がわかるかと思います。

なぜ写真をRAWで撮影するべきなのか

上述のとおりRAWで撮影すべき最大の理由は情報量にあります。JPEG設定でされた写真をRAW設定で撮影された写真と同じように現像しようとしても、同じようには現像ができません。彩度や明度の階調が豊富な状態で編集できればレタッチの幅が広がり、仕上がりに大きな差が生まれるのはこのためです。

デジタル写真の現像

デジタルカメラの場合、RAWの設定で撮影された写真は写真現像ソフトを使用します。

以下はRAW現像が行える主なソフトになります。カメラメーカー各社からは基本的に現像するために必要なソフトが無料で配布されています。(この他にも様々なソフトが存在します。)有料の現像ソフトの中には現像だけでなく編集が可能なソフトも含まれています。(Photoshopの場合、Camera RAWというプラグインを使用することで現像が可能になります。)

以下は主だった現像ソフトリストになります。

無料のRAW現像ソフト

1 : Canon Digital Photo Professional
2 : Nikon Capture NX-D
3 : Sony Imaging Edge
4 : FUJIFILM FUJIFILM X RAW STUDIO
5 : OLYMPUS Olympus Workspace
6 : Panasonic SILKYPIX
7 : PENTAX Digital Camera Utility
8 : Hasselblad Phocus
e.t.c.

有料のRAW現像ソフト

1 : Adobe Lightroom CC
2 : Adobe Photoshop CC
3 : Capture One Pro
4 : Affinity Photo
5 : Luminar
6 : Silkypix Developer Studio
7 : DxO PhotoLab
8 : AfterShot Pro
9 : Photomatix
10 : Aurora HDR
e.t.c.

写真現像の基本手順

下記、2.下準備~4.トーン調整までの順番は人それぞれ作業の進め方が異なるので、あくまでも1つの指針として見ていただければ幸いです。

1. 現像の方向性を決める
2. 下準備
 2-1. カラープロファイルを選択
 2-2. レンズ補正
 2-3. フリンジ補正
 2-4. 歪み補正
 2-5. トリミング(Photoshopで仕上げる場合は省略)
3. 基本補正
 3-1. 露光量
 3-2. 白レベル
 3-3. ハイライト
 3-4. 黒レベル
 3-5. シャドウ
 3-6. 色温度
 3-7. 色かぶり補正
4. トーン調整
 4-1. トーンカーブ
 4-2. HSL(Hue:色相/Saturation:彩度/Luminosity:輝度)
 4-3. 明暗別色補正
 4-4. ディテール
 4-5. 効果
 4-6. フィルター・補正ブラシ・スポット修正
5. 仕上げ・Photoshop作業へ
 5-1. 書き出し設定
6. 最後に

1. 現像の方向性を決める

デザインの現場であれば仕上がり(カンプ )がFIXした段階で撮影の準備をし、本番の撮影が行われます。この時、事前に頭の中でより良く仕上げるためのイメージをフォトグラファーと共有し、イメージのすり合わせを行います。このイメージが中途半端な場合、仕上がりも中途半端になってしまいます。

撮影が行われた後、写真セレクトを行いベストな写真を写真を仕上げる専門家=レタッチャーが現像・加工・編集を行いビジュアルを仕上げてゆきます。

自身で撮影を行う場合も、いくつか撮影したものの中からベストな写真をセレクトし編集をすることになります。

2. 下準備

2-1. カラープロファイルを選択

「R:255 G:0 B:0 」=真赤 というデータをモニターに表示した時、モニターの機種ごとに表現できる色域が違うため、そのモニターで表示できる最も赤い色というデータが画面に表示されることになります。同様にCMYKで表現された色データも、どのような色で印刷されるかは印刷機の機種や使用されるインクや紙の材質によっても異なってきます。

カラープロファイルとはデジタルカメラやスキャナ、モニターやプリンターなどの入出力機器の色再現性の違いを極力少なくするための設定プロファイルになります。

2-2. レンズ補正

太陽光は様々な色(波長)の光が集まったものなのですが、レンズを通った光は波長ごとに屈折率が異なる性質を持っています。そのため1点に集まらず異なった点に到達することで収差が生まれます。カメラのレンズによって凹レンズや凸レンズなどの組み合わせや枚数が異なるため、その収差自体も異なってきます。

レンズの収差は大きく分けて「色収差」と「単色収差(ザイデル五収差)があります。色収差には軸状色収差、倍率色収差があり、単色収差には球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲、湾曲収差があります。

レンズ補正とは、収差による写真の歪みを修正・調整するための機能になります。

2-3. フリンジ補正

フリンジ補正とは2-2で述べたように、レンズ収差によってできた色の滲みを修正・調整するための機能になります。逆光で撮影した写真など明暗差の激しい境界付近のエッジ部分が紫色っぽく写る事があります。パープルフリンジと呼ばれるものになりますが、こうした現象を補正する機能になります。

2-4. 歪み補正

水平垂直をしっかりとって撮影したものだとしても、数ミリのズレや傾きが写真に現れます。この歪みを補正するために変形ツールなどを使用して、縦軸や横軸などの傾きを調整してゆきます。

2-5. トリミング

自身で作業を完結させる場合は、予め使用する範囲を切り取る(トリミング)ことで、余計な部分が気にならなくなります。デザインの現場では、デザイナーがレイアウトした段階で画角が足りないなどの問題が発生する可能性があるので、Photoshopなど仕上げの段階でトリミングすることをお勧めします。

3. 基本補正

3-1. 露光量

仕上がりイメージに合わせて全体の明るさを調整していきます。この時、白トビしている部分や黒ツブレしている部分が無いように調整する必要があるので、ヒストグラムを確認しながらクリッピング表示で飛びすぎている部分や潰れている部分が無いか確認してください。

3-2. 白レベル

白レベルを調整することで、画像全体の明るさの最大値を増減させることができます。

3-3. ハイライト

ハイライトは画像の明るいところをより明るくしたり、白トビしてしまっている部分を復元する(明るさを抑える)事ができます。

3-4. 黒レベル

黒レベルを調整することで、画面全体の暗さの最小値を増減させることができます。

3-5. シャドウ

シャドウは画像の暗いところをより暗くしたり、黒ツブレしてしまっている部分を復元する(陰影を抑える)事ができます。

3-6. 色温度

光の色味を表現するために数値で表現したものを色温度と呼びます。Lightroomでは2000~50000の値の範囲で色温度を指定する事ができます。

以下は色温度チャートになります。

3-7. 色かぶり補正

撮影時の光源の色の違いによって起こる「色かぶり」は色かぶり補正をすることで調整が可能になります。グリーンまたはマゼンタの色かぶりがある場合、ヒストグラムを確認しながら、R・G・Bの読み取り値を出来る限り互いに近づけることで最適なホワイトバランスになります。

4. トーン調整

4-1. トーンカーブ

トーンカーブ は階調(トーン)変化をグラフにしたものになります。対角線上にひかれたライン形状を変化させることで写真の明るさ・色調・コントラスト補正することができます。

4-2. HSL

写真の色情報を8色(レッド・オレンジ・イエロー・グリーン・アクア・ブルー・パープル・マゼンタ)に分け、HSL(Hue:色相/Saturation:彩度/Luminosity:輝度)ごとに細かな調整ができます。

4-3. カラーグレーディング

以前までの明暗別色補正では、ピクセルの明るさに基づいてハイライト部分とシャドウ部分それぞれの色相や彩度を変更することができていました。新しく合ったカラーグレーディングでは、ミッドトーンも含めてコントロールすることができます。

4-4. ディテール(シャープ・ノイズ軽減)

ディテールは被写体のエッジをくっきりとした仕上がりにする場合やノイズが多い写真を調整する場合などに適しています。シャープの適用量、半径を調整しながらディテールとマスクで適用させる範囲を調整して使用します。ノイズ軽減はとても便利な昨日なのですが、過度に調整をかけてしまうとディテールが滲んでしまうので扱いには注意が必要になります。

4-5. 効果

レンズとカメラの組み合わせによってはケラレが発生します。周辺光量補正を行うことでケラレを抑えることが可能になります。また意図的に周囲を暗くすることも可能です。効果ではフィルム調に仕上げることができる粒子というツールがあります。

4-6. スポット修正・フィルター・補正ブラシ

スポット修正は、ホコリやほくろ・傷など小さなものを除去できる機能です。この機能には「コピースタンプ」と「修復」という2種類の機能があります。フィルターには段階フィルターと円形フィルターがあり、風景写真の空と地平線を別に明るさ調整したいなど、調整したい範囲を直線的に分けたいときには段階フィルターを使います。円形フィルターは円の選択範囲の中心部分、または周辺部分にのみマスクを掛けます。補正ブラシでは人物のレタッチや特定の部分のみにマスクをかけ色調補正をする用途が多いです。

5. 仕上げ・Photoshop作業へ

5-1. 書き出し設定(ファイル)

書き出し設定では様々な設定で書き出すことが可能です。ファイル設定では、画像形式が 1.JPEG(主にWEB用) 2.PSD(後処理が必要な場合) 3.TIFF(高解像度の写真が必要な場合) 4.DNG 5.元のまま(めったに使わない)まであります。カラースペース(sRGBやAdobe RGBなど)が設定可能。その他にファイルサイズの制限を設定できるので書き出しの際にメールで送れるサイズ内に収めたい場合などには重宝します。また写真に透かしや著作者情報などを一括で入力管理が可能です。

6. 最後に

写真現像に慣れるには何度か繰り返し作業をする必要があります。しかし、身につけることで得られる経験値は実作業を通して実感できるようになります。カンプ の精度やスピードが上がり、表現の幅も広がります。撮影現場でカメラマンへの指示やレタッチャーへの指示出しも怖がることなくイメージを伝えることができるようになります。

BACK