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「サードプレイス」というコミュニティの未来

「リモート疲れ」してる?

昨年2020年、新型コロナウイルスの発生とともに、我々は在宅を中心とした生活を余儀なくされた。多くの人は在宅勤務し、学生はリモート講義にシフト。そして今なお、変異株や第4波の急速な拡大により、それは終わりが見えていない状況だ。
当初の頃は、「満員電車で通勤しなくてもよい」「いやな上司と顔を合わせなくてもよい」「子どもの世話をしながら仕事ができる」等々、歓迎する声が多かったものの、それも2-3ヶ月も経つと、「リモート疲れ」という言葉が叫ばれ始めるようになった。それはコロナ禍前の定番だった遠距離の通勤・通学、仕事やアルバイトによる疲労、人間関係のストレスなどとは違うタイプの疲れだ。
学生にいたっても同様である。半年以上も自宅や実家にこもりきりだと孤独感や孤立感に襲われるのは当然で、ある学生は毎朝、目覚めたら涙が止まらないと語っていたという。
メンタル面、仕事の生産性どちらにも影響を与える結果になった、この問題。その解決の糸口の1つとして、近年注目されている「サードプレイス」について考えてみようと思う。


01/人類のコミュニティへの本能が求めたもの。
アメリカで生まれた「サードプレイス」。

オルデンバーグ氏著書 「THE GREAT GOOD PLACE サードプレイス コミュニティの核になる“とびきり居心地よい場所”」

「サードプレイス」という言葉を一番初めに提唱したのは、社会学者のレイ・オルデンバーグ。1989年、彼がアメリカ社会を観察したときのある気付きから始まった考え方である。
アメリカは当時、自動車依存型の都市社会。人々は、家庭(第1の場)と職場(第2の場)を往復するだけの状態になっていた。オルデンバーグ氏は、こうしたストレスの多い現代社会を生き抜くには、第3の場所「サードプレイス」、つまり潤滑油の役割を果たす場所が必要だと考えたのだ。

そして以下のように定義付けた。
オルデンバーグ氏が挙げる、サードプレイスの特徴は次の8つ。
1 中立性
2 社会的平等性の担保
3 会話が中心に存在する
4 利便性がある
5 常連の存在
6 目立たない
7 遊び心がある
8 感情の共有

これらに含まれるのは、パブや教会、コーヒーショップといった場所。つまりサードプレイスとは、人が週に数回は足しげく通い、リラックスして、社会的な絆を維持し、文化における自分の居場所を主張する場所なのである。著書の中で、「最終的にコミュニティに対する人類の本能が勝利を収めるだろう」と結んでいる。

「サードプレイス」がもたらす効果

サードプレイスによってもたらされる恩恵を具体的にあげていこう。規則的で型にはまった生活の外げ出ることで、得られる効果の1つは、目新しさを感じられ、刺激を受けることができること。2つ目は、出会う様々な人々の興味や考えを知る機会を得られ、健康的な人生観が構築されること。3つ目は、型にはめられない自由な表現行為が可能になり、社会的な役割からの開放を感じることができるようになり、それが心の強壮剤になり得る、ということが挙げられる。

社会にとっては、次のような5つの効果の事柄が提示されている。1つは、政治上の役割になること。かつての酒場のような地元・地域の問題を知り、議論する場所が必要で、その役割をサードプレイスが担う。2つ目は、会合の習慣ができること。誰でも受け入れるような懐の深いサードプレイスがないところには、「社交生活の最も重要な面」が欠けている。サードプレイスは「自由な集会」を可能にし、人びとが社会的な違いを越え、互いに意見を交換し、まとまれる場となるのだ。


3つ目は、取締り機関であり、世のため人のためになる力である。じかに顔を合わせているからこそ成り立つ、コミュニティ・ライフの監視機関となり得ること。その場に集う集団の内側にも外側にも「良識」に基づいた人間関係を構築することができる。
4つ目は、蓋をしたままでの愉しみができること。日常生活のリズム一部として、晴らしと浮かれ騒ぎが許される空間となり、日常からの逃避を可能にしてくれる。5つ目は、公共領域の派出所になること。良識ある人びとが利用し、楽しむための公共領域を確保するうえでサードプレイスが重要になってくるのだ。安全な公共領域を目指すうえで重要な役割を果たすのは、普通の市民であり、彼らによる「自然発生的な監視」を可能にしてくれる。6つ目は、過ごし方の選択肢の一つが増えること。冒険心があり、集団でいることを好むタイプの人々がコミュニティ・ライフを形成できる場所としてサードプレイスが選択肢として選ぶことができるということだ。

これらのサードプレイスが社会や個人にもたらす恩恵を見ると、顔を合わせて集まることの重要性が明らかになってくる。家の中でメディアを通してしか情報を得ていない状態が本当に地域・住民にとって健全なことなのか。当時のアメリカの状況を踏まえてオルデンバーグ氏が提示したこの問題は、今でも十分に我々に当てはまるのは明白である。

 

02/日本における「サードプレイス」
スターバックスは、日本人に合わせた「マイプレイス型」並行にシフトして成功を収めた。

日本は欧米に比べ、サードプレイスが持ちにくい文化圏と言われている。その理由としては日本の文化や習慣が大きい。一例をあげると、シアトル系コーヒーの元祖「スターバックスコーヒー」の事例からそれが見てとれる。
スターバックスは1996年に海外第1号店を東京にオープン。創業者の意向から、サードプレイスの概念を意識した店作りをコンセプトとしていた。オープンしてすぐに若年層から圧倒的な指示を得て大きく話題になった。だが、多くの中高年層にはなかなか受け入れられていなかったという一面もあったという。

スターバックス日本1号店の銀座松屋通り店
引用 https://taptrip.jp/2616/

というのは、そもそもオルデンバーグ氏が提唱した「居心地の良い第3の場所」は、例えばイギリスのパブやフランスのカフェのような地域の交流の場を指しており、それらが代表的なサードプレイスとなっているのは事実である。しかし日本では、同じような役割をカフェは果たしていない。我々日本人にとって、“カフェ”はくつろぐ場であり一人の憩いの場、といった位置付けなのである。このことから、スターバックスは日本仕様として、1人時間を楽しめる「マイプレイス型」並行の店づくりに転じる方針をとった。

「サードプレイス」の概念が3タイプに。国や文化によって、そのタイプは分かれてくる。

現在「サードプレイス」の概念は大きく以下3つのタイプとされている。
1 社会的交流型 (イギリスのパブやフランスのカフェ、新橋のガード下の飲み屋、地域コミュニティ)
2 目的交流型 (異業種交流会、地域コミュニティ、クラウドファンディング、サードプレイス・ラボ)
3 マイプレイス型 (日本のスターバックスやカフェ、コアワーキングスペース、シェアオフィスなど)

一番初めに提唱したオルデンバーグ氏の示すサードプレイスの特徴は、社交的交流型にもっとも合致していると考えられるが、マイプレイス型と目的交流型はオルデンバーグ氏の意図していなかったサードプレイスであると言えよう。ただしオルデンバーグ氏の特徴に対比すると、マイプレイス型は会話、常連などの要素が該当しなくなっていることに対し、目的交流型はそれらの特徴をすべて満たしたうえで、社交以外の目的が付加されていることに留意が必要である。

ビジネスや地域振興の起点になりつつある「サードプレイス」

例に挙げたスターバックスから、日本はいまや飲食店や駅、図書館など、誰にでもおなじみの場所が、年齢、性別、そしてバックグラウンドが異なる人同士を結びつけるサードプレイスに変わりつつあり、新規ビジネスが始まる場所になっている。

「スナック」
全国に約10万軒はあるといわれるスナック。店馴染みの男性が、カウンターの綺麗なママに身の上話をしているイメージがある。ちょっと前までは中高年男性が通う場所とされていたが、今はサードプレイスとして関心を寄せる若者が多く、夜な夜なスナックに集まる場所に変化していっている。

「サウナ」
サウナも新たなビジネスの起点になった。JALが2019年末にスタートさせた、大人気マンガの「サ道」と提携した各地のサウナを案内する「サ旅」(Aauna Journey)。このキャンペーンは、「サウナで企業がつながる」というオープンイノベーションであり、JALとコクヨが共同代表を務めるJAPAN SAUNA-BU ALLIANCE (ジャパンサウナ部アライアンス)のメンバーが、サウナの中で話し合ったことから生まれた。
「サ旅」(Aauna Journey)

「コワーキングスペース」
昨今のコロナショックで、日本企業のテレワーク導入が待ったなしになった。家族との同居等で自宅で仕事をするのが困難というビジネスパーソンにとって、今後テレワークの拠点として、サードプレイスが重要なインフラになる。無論コワーキングスペースは、フリーランスやクリエーター、スタートアップ企業など、副業や起業の場にも活用されるので、いろいろなタイプの利用者が集まることで、様々な交流が生まれる。そこでの出会いから新たなアイデアが生まれることも。

「図書館」
米ニューヨークの図書館などの先進的な取り組みに触発され、この20年で日本でもビジネス支援機能を備えた図書館が増え、現在ほぼ全ての都道府県立図書館が、加えて市区町村立図書館でも約4割がビジネス支援機能を備え、サードプレイスとしての図書館という役割を担うことに。もちろんサードプレイスとしての、図書館を預かる司書の育成も行われている。ビジネスの知識を学ぶ「ビジネス・ライブラリアン講習会」など各地で開催され、毎回多数の司書が受講。まずは中小企業の経営者が、図書館をサードプレイスとして利用することが多くなってきた。そして経営者のみならず、ビジネスパーソンの利用も広がってきているのだ。本離れが進む中、図書館ではサードプレイスという役割を加えることで、再度活性化しようとしている。

 

03/現代人が求める「サードプレイス」は、リアルにはもうない?

昨年2020年、国内ゲーム市場は過去最高額になった。コロナ禍で、ゲーム人口は増加したその背景には、自己隔離という孤独がある。目的もなくただゲームの世界にログインする人々の存在は、そこがサードプレイスとして役割を果たしていることを示した。
Nintendo Switchのゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」の空間で育まれたぬくもりもそのひとつだ。
「島」の住民に会い、何気ない会話を交わして、ビーチをぶらぶらする。経験のない閉塞感が漂う現実から逃れてたどり着いたコンピューターゲームの空間には、なじみ深い現実と当たり前の日常が待っていた。人々の交流の様子やゲーム開発の舞台裏に迫ったこのゲームは、自主隔離の時代でも、テクノロジーによって創出された場と、そこに集う人たちのアイデアによって豊かなコミュニティを醸成できることに気づかせたものの1つといえる。

オンラインゲーム「フォートナイト」にできた、たった10分のサードプレイス。

人気ラッパーのトラヴィス・スコットのバーチャルライブ『Astronomical』は、同時接続数1230万を記録。バーチャル空間上でのライブのポテンシャルの高さを世界に示す出来事となった。

2020年4月、現在では3億5千万以上もの登録ユーザー数を誇るマルチプレイゲーム『フォートナイト』にて行われた人気ラッパー、トラヴィス・スコットのバーチャルコンサート『Astronomical』は、たった10分に満たないながら「歴史的転換点」として喝采を浴び、大きく話題になった。外出自粛期間で、ソーシャル・ディスタンスが叫ばれる最中で行われたこのビックイベント。開発したエピック・ゲームズが提供したのは、プレイヤー達が心から欲していた何か、すなわち“イベントスペース”だったことが示される。
自宅隔離中に、誰もが社会的な絆から絞り出したいと願っているのは、“実体感”であった。そして幸運なことに、我々はデジタル空間にそれを見出すことができる。
今回の新型コロナウイルスの影響でオンラインゲームの人気は急上昇した。プレイヤー達はオンラインゲームで競ったり、一緒にくつろいだりしながら、互いの主観性を融合させている。その事実が、必要なのはその場所をコミュニティスペースとして扱う人々の存在だけだということを証明されたに等しい。

Clubhouseがもたらした驚きの本質。それは音声の拡張現実

引用:AYDEA

今年2021年、大きく話題となったSNSといえば「Clubhouse」。この音声SNSの“クローン”ともいえるサービスを、ついにフェイスブックまで開発しているという。「GAFA」まで入ってきた、このSNSがもたらした驚きの本質は、「音声の拡張とはコミュニケーションの拡張でもある」という点だろう。音声で見知らぬ誰かと直に話せる体験が、実はビデオ会議などで映像経由で出会う以上に親密でリアルな体験であることを体感したとき、それは単なる通話メディアとしての音声というよりも、もっと直接的な出会いと交流の空間であることを実感せざるをえない。オープンかつ共有可能で、誰とでもいつでも気軽にしゃべれる空間。そこは質の高いカフェスペースであり、カンファレンス会場であり、イベントも頻繁に開かれている。憧れのセレブやアーティストたちが、普段なら聞けないような会話を聞かせてくれる。それが声のパブリックスペースであり、今後の新たなサードプレイスの1つになってくることが期待される。

 

04/まとめ
「1人は好き。独りは嫌い。」現代の価値観に合ったサードプレイスとは。

現代社会は、コミュニティが疎遠になっているといわれている。とりわけ都市部では、人口が増加し集合住宅に多くの人が住み、近隣住民の顔や名前を知らないことが多い。満員電車で見知らぬ人のうねりと格闘しながら職場に通い、業務に従事し、また帰宅していく。そしてまた朝になれば、職場に向かう。心が殺伐としてしまうのも不思議ではない。


「1人は好き。独りは嫌い。」という言葉をよく目にする。つまり1人時間は楽しめるが、孤独を感じたくはない。そのような現代の価値観を叶えたものが、「フォートナイト」であり、「Clubhouse」であるとも言える。これらの新しい拡張現実が、現代における我々の新たなサードプレイスになってくるのではないだろうか。

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蟻と蝶
谷川俊太郎

蟻たちはその小ささによって生き残った
蝶たちはその軽さによって傷つかなかった
しなやかな言葉もまた大地震に耐えるだろう
だが今は言葉を慎んで私たちのうちなる沈黙の金を
四大に伏した者たちに捧げよう

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上の詩は、2008年の中国四川大地震のときに書かれた谷川俊太郎さんの詩である。この詩の通り、我々人類は災害の前にいたっては、いつだって蝶のごとく無力で儚い。これは揺るがない事実である。我々は常にそのような問題と隣り合わせだ。自然災害、環境問題、加えて終わらないパンデミック・・。そしてそれらは、あらゆるストレスと変化し、見えずとも絶えずあなたを攻撃し続けているのだ。

あなたがもし今、心や体の調和がとれておらず、思考の均衡を保つことができていない状態なのであれば、「サードプレイス」を探しに行くべきタイミングなのかもしれない。それは、“何処か”でもいいし、“誰か”でもいい。
いくら科学技術が発展しようとも、人類が弱くて儚い存在であることには変わりはない。だからこそ強くしなやかに、人生を楽しめるように、あなただけの「サードプレイス」が必要なのだ。そしてそれを見つけたその先には、きっとまだ出会えていなかった「本当の自分自身」が手を広げて待っているはず。

それを信じて、どうかあなたが、明日も進んでいけますように。

 

参考記事:
・ひとり時間はリトリートの好機だ:新型コロナウイルスの時代のライフスタイルとは
https://wired.jp/2020/03/20/covid-19-series-1-well-being/

・コロナ禍にこそ見える「サードプレイス」の価値とは
https://www.nomlab.jp/jp/nomlog/detail/55

・法政大学地域研究分野の論文である、地域コミュニティにおけるサードプレイスの役割と効果
https://hurin.ws.hosei.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/vol09_07.pdf

・サードプレイスを日本流に再構築!サウナやスナックも立派なサードプレイス 
https://off.company/thirdplace

・ビジネスパーソンに「第3の場」は必要なのか
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2002/23/news012_2.html

・コロナ禍にこそ、若者にはサードプレイスが必要だ
https://newswitch.jp/p/26617

・「音声の拡張現実」による社会変化を、“Clubhouse旋風”が加速する:井口尊仁
https://wired.jp/2021/03/03/clubhouse-voice-social-network-change/

・「フォートナイト」のようなオンラインゲームは、現代の“サードプレイス”になる
https://wired.jp/2020/05/14/fortnite-travis-scott-party-royale-third-place/

・トラヴィス・スコット×フォートナイト なぜ「歴史的」だったのか?
https://www.cinra.net/column/202005-travisscott_gtmnmcl

・現実を超えたミラーワールド「メタバース」が生み出す、超感動体験の正体
https://bae.dentsutec.co.jp/articles/metaverse/

引用:
「蟻と蝶」http://zenkanren.sakura.ne.jp/01katsudoukiroku/18sonotanohoukoku/1802chuugokushisen.html

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