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誇るべきMADE IN JAPAN  “EMOJI(絵文字)”

はじめに。
“emoji(絵文字)”は、“manga(マンガ)” “anime(アニメ)” “kawaii(カワイイ)” と並んで
世界でも有名な日本語だということをご存知だろうか。
さらに“emoji(絵文字)”は、アメリカで現代アートの美術館を代表する、MoMAに収蔵までされた『作品』でもある。今回のこの記事では、日本で生まれた誇るべき“絵文字 “EMOJI” が誕生したその経緯と、その後のお話のである。

 

1. 絵文字の起源。産みの親がいた?

デジタルコミュニケーションにおけるemojiは、どこから生まれたのか? 

それは1995年頃、ポケベルに採用されていた「ハートマーク」。ポケベルでは電話のダイヤルで「88(または89)」と入力することでハートマーク(♥)が使えた。当時の若者は、ポケベルの限られた文字数の中で、親密なコミュニケーションをする手段として、とにかくハートマークを多用したのだった。
そして、そのポケベルの流行も終わろうとしていた1999年、世界で初めてケータイからインターネット通信が可能なiモードがNTTドコモから登場した。
「テキストだけではケンカする。少ない文字数でコミュニケーションするとき絵文字は必要だ。」当時、NTTドコモのiモードの開発陣とそれをリードした栗田穣崇(くりた・しげたか)氏はそう考え、iモードに絵文字機能をつけることを提案。そしてどんな絵文字がいいのか、方眼紙を用意して自ら筆を走らせた。
そのころの時代はパソコンについてはwindws95が流行っていたとはいえ、どちらかといえばワープロの時代。ドコモという大企業でありながら、たった7人のチームで始めたプロジェクト。まるでベンチャーのような雰囲気で、上司と面と向かって議論できる土壌があったという。
“当時付き合っていた彼女とのポケベルでのやり取りから、「感情が伝わりにくい短文でも、語尾に『♥』がつけばポジティブな印象になる」と実感していたんです。”
そう感じていた栗田氏。絵文字の存在がなくてもiモードのサービスは成立できていた。それでも絵文字の機能を入れたいと提案したところから、空いた時間で考えることに。
10日間で絵文字の候補をリストアップ、1週間でデザインラフ、トータルおよそ1ヶ月で約200個の絵文字を制作したという。ほぼアナログの時代に、1から絵文字をつくりあげるのは大変だったと思う。
ちなみに、栗田氏が一番最初に描いたのは「誰が書いても同じ」という傘マーク。次いで絵文字開発のきっかけになったハートマークだった。また、思いついたもので一番良かったのは感情を示す顔の絵文字だったと振り返る。 その一方で「失敗した」というのは禁煙マーク。禁止を意味する斜線の方向が右上→左下へ走っているが、こうしたマークでは通常、逆方向(左上→右下)だという。
日本にだけ存在した『iモード』。今となっては、どれくらいの人がこの言葉を知っているだろうか?
それはそのときの最先端の時術であった。当時高校生だったわたしは、ごく一般的なユーザーとしてiモードを使い、ごく一般的なユーザーとして当時の友人や恋人と『絵文字』を使いコミュニケーションをとっていた。
いまや携帯電話はスマホになり、メールでやりとりしていたことはフリーのチャットアプリでできるようになった。ビジネスもプライベートも、文字数の制限なく、絵文字どころかアニメーションのスタンプだって送信できてしまう。当時の記憶などまったく忘れさっていたのだが、この絵文字についての調査において、記憶が舞い戻った。
今ではiPhoneに標準搭載になっている、この絵文字がここ日本で生まれ、そして現在MOMAに収蔵されてる事実を、どれだけの人が知っているのであろうか。この事実は、デザイナーとしてだけではなく、日本人として知っていたほうがいい誇るべき事実だと思う。

引用 https://goodmanners.tokyo/museum/july-7-2017/
©️NTT DOCOMO, INC.ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵された絵文字
栗田さんが制作したドコモの絵文字。こちらの写真ではカラーだが、iモードがリリースされた当時はモノクロでしか表現できなかった。

MoMAでの展示風景。©The Museum of Modern Art, New York

参照記事:
・日本から世界に広まった「絵文字(emoji)」は、どのように生まれたのか?
https://www.fuze.dj/2016/09/1999iemoji.html#:~:text=iPhone%E3%81%AB%E7%B5%B5%E6%96%87%E5%AD%97%E3%81%8C%E6%90%AD%E8%BC%89,11%E6%9C%88%E3%80%81iOS%202.2%E3%81%8B%E3%82%89%E3%80%82
・iモードに絵文字を生んだ男の、やりきる力。やがて絵文字はemojiになった|栗田穣崇の履歴書
https://employment.en-japan.com/myresume/entry/2020/02/18/103000
・ピクセルで気持ちを表す絵文字
https://goodmanners.tokyo/museum/july-7-2017/

2. 日本で生まれ、その後世界に広がった『EMOJI』。2016年に発表されたiOSでの変化とは?

さてここからは、世界に広がった『EMOJI』の話に移る。
Appleを例にとると、2009年11月、iOS 2.2からiPhoneで絵文字が搭載され、最初は日本向けのiPhoneだけの特別機能だったが、2015年発表のiOS 9に至っては1393種もの絵文字がサポートされるまで広がっていった。
そして2016年。いまから4年前、この年にアップデートされたiOS 10には、ちょっとした絵文字の変化がみられた。それは「金属製の銃」が「おもちゃの水鉄砲」に変更されていたこと。これは小さな変化だったのだが、その背景には米国で拡がる銃規制への動きに対するメッセージとして受け止められる。以下Apple以外のキャリアーによる「銃」アイコンの変化である。

引用 https://news.mynavi.jp/article/20180426-622657/
資料元: Emojipedia

Appleは『人殺しの武器であった銃』を『子供のおもちゃ』に敢えて変えたのだ。「Emojipedia」創設者ジェレミー・バージは、これについて「これはアップルとしては珍しいことです」と言う。「アップルがそのグラフィックスを洗練させる以上のことを行った例は、これまでなかったでしょう。ある絵文字の意味を根底から変えるのは、稀なことなのです」。そう、アップルは銃を“廃止”したわけではなく“無害”にしたのだ。
それならば、なぜ銃を入れておくのだろうか? なぜ武器の表現自体をなくさないのか? ナイフも爆弾も、捨てればいいのではないか?
まず第一に、アップルにはそれはできない。どの絵文字が組み込まれるかを決めるのは、ユニコード※だ。アップルにしろグーグルにしろ、企業が決められるのはそれを視覚的にどう表現するかでしかない。それに、アイコンを削除するという行為は、企業が課した検閲だという抗議も引き起こしかねない。
これをうけて2年後Googleやマイクロソフトも絵文字の「拳銃」を「水鉄砲」に変更。2016年のAppleの絵文字変更が、主要プラットフォームが表現を統一させたのだ。ここで気になるのは、日本の大手携帯会社の絵文字はどうか?なんと『銃』はそのまま、である。この辺りは『銃』に対する社会の関わり方の違いがそのまま出ているのかもしれない。日本において『銃』は基本的に警官しか持たない『特殊な存在』なのだ。実物を目にしたことない日本人も多いはずだ。

※ユニコード
https://www.buildinsider.net/language/csharpunicode/01
https://ja.wikipedia.org/wiki/Unicode
参照記事:
・iOS 10の「水鉄砲の絵文字」に隠された、大いなるアップルのメッセージ
https://wired.jp/2016/09/15/apples-new-squirt-gun-emoji/
・Google、Androidで銃の絵文字をおもちゃの水鉄砲に変更
https://news.mynavi.jp/article/20180426-622657/

3. まだまだ絵文字は進化する。世界初の「ジェンダーレス絵文字」は、性別に対する先入観を打破できるか?

想像してほしい。あなたは今、iPhoneを片手に、友人にテキストメッセージを送ろうとしている。用件のメッセージを打ち終わったあなたは、間違いがないか、送信前に読み直し確認をした。
そしてあなたは、いや、これだけではあまりに事務的だと思い、メッセージの最後に絵文字をつけようと、絵文字を探す。
そのときのあなたは、女性か?男性か?または肌の色をどのくらい意識して選んでいるか?
男女の区別さえできていれば、気にしないという人もいるだろう。しかしたかが絵文字、ではないのだ。
これは一部の人には自身のアイデンティティに関わってくる話である。個人の多様性の尊重が重要視されている今、我々はそのことについて、もう一歩踏み込んで考えなくてはならない。

今年2020年、iPhoneに新たに搭載された絵文字では、トランスジェンダーや性差別のないバリエーションが追加された。今回追加されたのは、まったく新しい絵文字62種類と、新しいジェンダーや肌の色のバリエーション55種類からなり、その多くが性差別に配慮したものだ。

どの端末にも見かける、顔アイコンのスマイリー。いろんな表情があって、多用する人も多いだろう。ウインクしたり、しかめ面をしたり、泣き笑いしたりしている黄色くて丸い顔は、男性か女性か?

性別はどちらか一方とは限らないと思っている人、あるいは特定の性のアイデンティティーは必要ないと考える人には、これまでの絵文字によい選択肢はなかった。

アドビのフォントデザイナー、ポール・ハントは自身が同性愛者であること、モルモン教であることのアイデンティティを持って、その思春期を過ごし、それについて深く考えたという。
それに関することの1つが性別である。

個人のアイデンティティの最も基盤となる要素が性別。とても重要なコンセプトなのにも関わらず、我々はその性別に対してのリスペクトを忘れがちではないか?私たちは自分の興味のあることに向かって人生がごいてそれが当たり前だと思ってしまうため、自分たちを普通、平均な人間だと思いがちであるが、そうでない場合もあるのである。

画像元:ポールハントのジェンダーレス絵文字『child』

“UNICODEの男女同権の主張を続けることで自分のアイデンティティをよりうまく伝えることができるツールを提供していきたい(ポール・ハント)”

男性は男らしい、女性は女らしいという認識は、本当に合っているのか。彼はその疑問をいだき、UNICODEの絵文字小委員会にいくつか案を提案。エイジェンダー(無性別)にすべきだと主張した。

大手ベンダーの絵文字には、性別を男尊女卑でバイナリー(二者択一)に捉える絵文字が含まれている。

また、絵文字に関する性別認識アンケートを行った際、全ての絵文字が基本的に男性的と認識されている調査結果があったという。抽象的な『スマイリー』の絵文字でさえも、男性的に見られるという。対照的に、目がハートになっているスマイリーは、女性的とみられることがわかった。このように抽象的な絵文字であっても我々の文化に根付いている男性と女性の印象が影響していることはとても興味深い。

日本のi-modeから生まれた『絵文字』は今や、世界中の人がコミュニケーションに用いる道具となった。そしてもはや日本人だけのものではなくなった『絵文字』は我々の手を離れ、世界中の人たちが様々な角度でブラッシュアップを続けていく『共有文化』となった。
一方で、日本と韓国が産んだSNS『LINE』では、絵文字を饒舌に進化させた『スタンプ』が特徴となっている。Facebookの持つ『Messenger』や中国の『Wechat』もスタンプを採用するが、そのクオリティは『LINE』に遠く及ばない。LINEは日本以外にもタイ、台湾、インドネシアでSNS上位を維持している。プラットフォームとして、LINEが強いかどうかは別として、コミュニケーションにおいて『絵文字』や『スタンプ』が担う役割に注目すれば、日本が世界で活躍できる突破口を見つけ出せるかもしれない。

参考記事:
・今年Appleデバイスに追加される絵文字は117個?注目すべきはジェンダーレスな新絵文字♩
https://isuta.jp/category/iphone/2020/02/602717
・絵文字エバンジェリストであるポール・ハント氏へのインタビュー
https://asobo-design.com/nex/blog-312-2-28629.html
・2020年版絵文字はトランスジェンダー旗や性差別のないバリエーションが満載(Tech Crunch)
https://jp.techcrunch.com/2020/02/01/2020-01-30-transgender-flag-and-more-gender-inclusive-options-to-arrive-in-2020s-new-emoji-among-others/
・世界初の「ジェンダーレス絵文字」は、性別に対する先入観を打破できるか
https://wired.jp/2017/08/09/first-genderless-emoji/

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