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Overview

2010年、SNSを活用した企業コミュニケーションが注目される中、無印良品はフォロワー数で他社を圧倒していた。しかし「無印良品が家を売っている」ことはあまり知られていなかった。そこで実施したのが「ぜんぶ、無印良品に住もう」キャンペーン。FacebookやTwitterでの応募設計と2ヶ月にわたるエンゲージメント育成により、商品理解を超えた「生活理解」を促進した。選ばれた応募者が2年間実際に無印の家で暮らすという体験を通じ、ブランドへの信頼と共感を醸成。その過程は書籍化され、SNS施策が一過性で終わらない“文化的物語”として定着した。高額商品である「家」すらも無印の思想で選ばれる、ブランド体験の拡張を実現した好例である。

Creative idea

「無印良品が“家”を売っている」と、誰が知っていたか?2010年、日本でもFacebookユーザーが急増し、企業がマスメディアではなくSNSを使ったブランドコミュニケーションを模索し始めていた。中でも突出していたのが無印良品。SNSのフォロワー数で大手を凌ぎ、ファンとの距離が極めて近いブランドだった。

しかしその一方で、無印良品が「家」まで売っていることを知っている人はほとんどいないという現実があった。7,500点もの商品群の中に「家」が紛れてしまっていたのだ。そこで生まれた問いはこうだった

「無印良品ファンは、“家まで無印”でも満足できるのか?」この壮大な問いに真正面から挑んだのが、「ぜんぶ、無印良品に住もう」キャンペーンである。

|1| 無印良品のブランド拡張に立ちはだかる“見えない壁”

無印良品は「選びすぎない」という思想のもと、日用品から食品、家具、衣類に至るまでライフスタイル全体を提案してきた。だが「家」となると話は別だ。“住空間”という高額で生活の本質に関わる領域において、ブランドの信頼は必ずしも浸透していなかった。いかにして「家」もまた無印の延長線にあると伝えるか。それが課題だった。

|2| “家全部が無印”というアイデアの挑発力

そこで立てたのが、「ぜんぶ、無印良品に住もう」という大胆なキャンペーンタイトル。ボールペンから住宅まで網羅する無印だからこそ成り立つこの発想は、商品ジャンルをまたいだブランド体験の総合演出だった。ファンであれば誰もが一度は夢想したであろう、「全身無印で暮らす」というイメージを、リアルに提供するという試みだった。

|3| FacebookとTwitterを駆使した“ファンの巻き込み設計”

応募の条件はシンプル。Facebookで「無印良品の家」をフォローする。もしくはTwitterでキャンペーン投稿をリツイートする。拡散されればされるほど認知が広がり、同時にファンの濃度も測れる仕掛けだった。公開初週だけで6万人のフォロワー増という反応が、その潜在的関心の高さを証明した。

|4| “応募”から“理解”へ──2ヶ月のエンゲージメント育成設計

応募は1週間で締めたが、発表は2ヶ月後に設定。この間、Facebook上では「無印良品の家」の設計思想、建材の工夫、収納アイデアなどを毎日のように画像や動画で発信し続けた。これは単なる“告知の間延び回避”ではなく、「この家に本当に住みたいと思えるか?」という理解と共感を育てる時間だった。

|5| “住む権利”の獲得とスクリーニングの心理設計

モデルルーム(東京・国立)に2年間無料で住めるという特典のため、応募者には「なぜ自分が住みたいのか」を文章でMUJI NET社に提出してもらった。これにより、本気のユーザーが誰かを見極めるスクリーニング機能を備えると同時に、「住むことは選ばれることだ」というブランドとの関係性の物語が生まれた。

|6| キャンペーンが書籍になるという“物語の昇華”

2年後、「ぜんぶ、無印良品に住もう」キャンペーンは雑誌編集者の目にとまり、書籍化される。『ぜんぶ、無印良品で暮らしています。』というタイトルで出版され、これはSNS施策がリアルな生活体験を通して、ブランドの新たなストーリーとして定着した例となった。

|7| “情報”ではなく“物語”で拡張するブランド体験

このキャンペーンが証明したのは、商品理解ではなく「生活理解」を生み出すことが、ブランドへの共感と信頼を育てる鍵であるということ。ボールペンも、鍋も、家具も、そして家も。全てが「無印良品の思想」の中にある。
それを情報ではなく、リアルな物語と生活の体験で伝えたからこそ、SNS施策は一過性に終わらず、書籍として残る“文化”へと昇華された。

About

Date 2011
Industry Retail
Location Japan