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Overview

手に取る人の人物像から、デザインを逆算想起する。

タバコはいろいろある商品の中でも非常に『関与度』の最も高い商品の一つだ。一度その商品を選んだら、お客様は数年間その商品を携帯する。2009年12月、JTから発売された「Pianissimo icene」。その名のとおり氷のような味わいの強メンソールタバコである。この製品をいかに届けたい人に届けるか?がテーマとなった。発売当初はパッケージのコンセプトに合わせてデザインされたオリジナルライターや携帯灰皿とセットで販売が予定されていた。

Creative idea

タバコは、喫煙者にとって最も“関与度の高い”パーソナルアイテムである。

タバコという商品は、単に「買う」ものではない。いったん気に入れば、何年にもわたって肌身離さず持ち歩く“分身”のような存在になる。特に女性向け・嗜好性の強い銘柄では、そのデザインや佇まいが“持ち主のキャラクター”に溶け込むことが求められる。2009年12月、JTから発売された「Pianissimo icene」は、“氷のような味わい”の強メンソール・スリムタバコ。本プロジェクトのテーマは明快だった:「この商品を、誰にどう届けるか?」その答えを導くために、私たちは人物像から逆算するデザイン思考を実践した。

|1| JTの設計思想に基づく、明確なターゲット像の共有

JTの商品開発は極めて精緻だ。開発段階ではすでに、狙うべきターゲット像が明確に言語化されている。本案件でも、オリエンの時点で用意されていたのは:

・ 商品コンセプト(強メンソール×冷感×華奢な印象)
・ 想定されるペルソナ(都会的/強さと美しさ/夜型)
・ 使用シーンや佇まい(バッグの中で、夜のカウンターで、静かに光る)

この人物像に、私たちデザイン側がさらなるイメージの肉付けを行い、“商品がキャラクターに見える”ような世界観設計へと発展させていく。

|2|「小悪魔」「夜の蝶」「氷」──言葉から視覚へ変換するプロセス

ターゲット像の周辺には、「小悪魔」「夜の蝶」「冷たい美しさ」といったキーワード(言語的イメージ)が存在した。私たちはそれらを感覚的に、かつ多面的に解釈することで、

・ 鏡のようなメタリックシルバー
・ 夜の闇に映える輝く月の輪郭
・ 冷たさと煌めきを両立するスワロフスキーのホログラム

といった具体的なビジュアルアイデアに落とし込んだ。言語から視覚へ、“感性の翻訳”がなされた瞬間である。

|3| デザインの幅を広げながら、狙いを絞る──理にかなった進行設計

本プロジェクトの優れていた点は、初期設計段階で方向性のズレが少なかったことである。理由は明確で、

・ 商品コンセプトが明瞭
・ ペルソナが詳細に設定されている
・ キーワードが共有されている

こうした状態でデザインチームが動き出すことで、

・ 狙いがぶれない
・ しかしその中で表現の幅を広く持てる
・ 調査と実験を経て絞り込みがしやすい

という、“創造的かつ効率的なプロジェクト進行”が可能になった。

|4| モックアップと定量調査を経て“最適解〟へ

いくつもの案を試作し、実際の購買者層を対象とした定量調査を実施。結果として選ばれたのは、

・ 鏡のようなメタリックな輝き
・ 月のような静かな存在感
・ 一点だけ輝くスワロフスキーのアクセント

という、氷の冷たさと“夜の艶”を併せ持つ仕上がりだった。これは単に商品を包むパッケージではなく、“手に取る人を語るアクセサリー”としてのデザインだった。

| まとめ |「誰に届くか」を想像することから、デザインは始まる

Pianissimo iceneのデザインは、商品仕様の翻訳ではなく、“人物像の造形”を手がかりに進めたプロジェクトである。関与度の高い商品だからこそ、「このパッケージを選ぶことで、何が表現されるのか?」という視点が、何よりも重要だった。それは、単なる“機能の入れ物”ではなく持ち主の“気配”をまとったプロダクトとしてタバコという存在に、もうひとつの人格を与えるデザインだったと言える。