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Overview

Grand Seiko(GS)は、富やステータスを象徴する西洋の高級時計市場において、“虚飾なき誠実さ”という東洋的価値で挑む存在だ。精度や仕上げの美しさに加え、「無為自然」や「引き算の美」に通じる思想を体現。広告では日本的モチーフすら排し、禅の「空(くう)」を想起させる静けさで語る。職人の技も「道」としての修練であり、内面の蓄積を宿す。この思想と美意識に基づいた表現は、今日まで続くGSのブランドフォーマットの原型を築いた。GSは“わかる人”に選ばれることに価値を置く、共鳴型のブランドである。

Creative idea

|1| 西洋の高級時計市場における“異質な挑戦”

ヨーロッパの高級時計市場では、時計はもはや「時を知る道具」ではなく、「富や地位を象徴するアクセサリー」と化している。ロレックスやパテックフィリップのように、時計に付随するストーリーや所有の誇りが価値の本質となっている世界だ。その中で、SEIKOの最高峰である「Grand Seiko(GS)」がグローバルで挑むということは、まさに“違う価値観”を持って「同じ土俵に立つ」という矛盾を抱えた挑戦だった。

|2| 虚飾なき“正直な時計”とは何か

GSの最大の特徴は、機能・精度・仕上げ・実直さに宿る、言葉にしにくい「誠実さ」である。この「正直さ」は、東洋思想の文脈では「無為自然(老子)」や「実の美(禅)」に通じる。つまり、見せびらかすための装飾を取り去り、「あるがままの本質」に立ち返る態度がそこにある。西洋の“足し算の美”に対し、GSは“引き算の美”で勝負する存在なのだ。

|3| 禅のミニマリズム:装飾を超えて“空”を魅せる

SEIKOの広告戦略がたどり着いたのは、いかにも日本らしい柄や文様すら排除するという、徹底した“無の表現”。ここには禅における「空(くう)」の思想が見てとれる。たとえば、床の間に花を一輪だけ活けることで空間全体を詩的に満たすように、GSは広告において“語らないことで語る”手法をとった。それは言葉や装飾を超えて、静謐な技と存在感そのものが雄弁に語るという、東洋的ミニマリズムの実践である。

|4| 職人技=技は“道”である

SEIKOの誇る職人技は、西洋の「技術」や「クラフトマンシップ」とはやや異なる。それは「技芸」ではなく、「道(タオ/ドウ)」としての修練であり、一つの技に己を重ねていく精神のあり方だ。それは刀鍛冶や茶道のように、繰り返し同じ所作を積み重ね、静かに深めていくという“内的蓄積”の美。GSの製造もまた、一人ひとりの職人が“観察し”“手を添え”“仕上げる”ことによってのみ到達する“気配のある完成”だ。

|5|「選ばれる」ことの意味:東洋的価値の再定義

最終的にSEIKOがたどり着いた表現は、「虚飾なく、ただそこに在る時計」であり、その価値を見抜き、選び取る人との出会いこそが至高の幸福であるという思想だ。これは、“選ばせる”西洋的マーケティングとは異なり、“選ばれる”ことに意味を置く東洋的な「共鳴の美意識」である。他者の評価を求めるのではなく、共に“わかる”人だけに響けばよいという姿勢。それはまさに、禅における「直指人心」の精神にも通じる。

About

Date 2015
Industry Precision equipment
Location Global

Information

Grand design

Katsunori Nishi
Creative Director
Yu Yamanoha
Art Director
Miho Kariatsumari
Art Director