Overview
RE:MEは「中国でNo.1の健康補助飲料」を目指し誕生した、新たな飲料文化を創出する挑戦的プロジェクト。“自分をリセットする”というコンセプトを軸に、薬のカプセルを模したデザインやZ世代向けの感性訴求で注目を集め、国際的デザイン賞も受賞。しかし、既存の市場文脈とのズレや育成不足により浸透に課題を残した。RE:MEは、見た目だけでなく市場との対話を通じたブランド設計の重要性を示す象徴的な試みとなった。
2015年、中国の健康意識が都市部を中心に高まり始め、ノンアルコール市場では従来の“甘くて重い乳飲料”や“伝統的な漢方系飲料”に代わる、新しい“機能系飲料”への期待が芽生えていた。そんなタイミングで、RIOの成功を見たRE:MEの経営トップが、グランドデザインを訪れたことからプロジェクトは始まった。
依頼内容は明快で野心的だった:「中国でNo.1の健康補助飲料を作りたい」漢方でも、デザートでもない。“健康に効きそう”で、“若者に支持される”飲料のあり方をゼロから設計するプロジェクトがスタートした。
RE:MEのベース成分は中国原産の果実「山桃」。甘さ・爽やかさ・伝統性をあわせ持ちつつも、健康飲料ともスイーツ系とも取れるあいまいなポジションにあった。私たちはこの曖昧さをポジティブな“中間性”=再起動(リセット)という意味づけで定義。
「RE:ME=自分を再起動する飲み物」というメッセージを込めてネーミングを決定。“RE:”という西洋的な機能表現と、“ME”という自己認識の感性を掛け合わせ、中国の都市生活者のメンタルケア飲料としての立ち位置を確立した。
RE:MEのパッケージ開発では、ただのオシャレ飲料ではなく、「見た瞬間に“効きそう”と感じさせるデザイン」が求められた。そこでたどり着いたのが、“薬のカプセル”という形状モチーフ。
・ 効能を連想させるビジュアル
・ 内容物が視認できるパッケージ構造
・ シンプルで、グローバル感のある色彩設計
この結果、グローバルアワード「Pentawards」でシルバー賞を受賞。これは、日本人と中国人のクリエイティブチームによる、初の国際的共同受賞という意味でも大きな成果だった。
ターゲットは18〜24歳のZ世代。写真を撮ってSNSにアップしたくなるデザイン性と、棚で目立つことを最優先に設計された。デザインコンセプトは以下の3軸:
Active:手に取って動き出したくなるようなエネルギー
Modern:都市生活に馴染む洗練された感覚
Juicy:果実感と効能が共存するフレッシュさ
しかし、これらが“健康補助飲料”という機能性飲料の文脈でどう受け取られるかは、まだ未踏のチャレンジだった。
RE:MEは、コンセプト・ネーミング・デザインともに、“新しい市場”を開拓する方向に構成された。だが、中国市場ではまだ健康飲料といえば、
・ 伝統的な漢方(=「効きそう」)
・ スイート系乳飲料(=「おいしそう」)
の二極が主流。その中間に位置づけられたRE:MEは、“どっちつかず”と感じられてしまった可能性がある。「右上(機能的でスタイリッシュ)」を狙ったつもりが、消費者からは左下(曖昧で弱い)に見えた」というのが、私たちの反省であった。
プロジェクト後、中国の飲料市場ではヨーグルトドリンクが急速に機能性とデザイン性を融合させて進化。
RE:MEが意図したような“機能的に飲むヨーグルト”市場が現実化していく中で、RE:ME自体のプレゼンスは次第に埋もれていった。これは、製品コンセプトが先進的でありすぎたこと、そしてブランドとしての“継続的な再解釈と育成”が足りなかったことの教訓でもある。
RE:MEは、単なる商品開発ではなかった。未成熟な市場に、未来の飲料文化を投げかける“問いのデザイン”だった。その結果、国際的なデザイン賞を獲得するなど、表現の完成度では成果を上げた。しかし、“消費者の受容文脈”と、“こちらの戦略意図”の間に生まれた微細なズレが、ブランドの成長を止めた。これは、「見た目を整える」だけでなく、“市場との会話”ができるブランド設計が必要であることを、私たちに教えてくれたプロジェクトだった。