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Overview

RIOの依頼は2012年の反日運動直後のグランドデザイン上海へ来た。こんなタイミングで日系デザイン会社にデザインを依頼してくれる中国企業とはどんな会社だと関心を持った。依頼の概要はシンプル。中国にはまだ低アルコール市場が醸成できていない一方、日本には長年の低アルコール市場がある。彼らは中国において低アルコールNo1ブランドを作るべく『カクテル』に目を向けていた。いわば『カテゴリーリーダー』戦略と言える。

Creative idea

「反日運動の直後に、なぜ日系デザイン会社に?」

2012年、日中間の緊張が高まる中、中国企業であるRIOからグランドデザイン上海に依頼が舞い込んだ。反日感情が高まるタイミングに、日系企業にデザインを託す――その姿勢自体に私たちは強い関心を持った。

依頼内容は明快だった。「中国にまだ存在しない“低アルコール市場”を創りたい」白酒・ビール・輸入洋酒が主流だった中国市場において、“薄くて甘いカクテル”という新カテゴリーをどう定着させるか。これは単なるデザイン依頼ではなく、市場をゼロから創るパートナーとしての挑戦だった。

|1| 市場不在のブルーオーシャンに挑む

当時の中国市場において、アルコールといえば白酒かビール。強い酒、集団で飲む酒が主流だった。だが、私たちは既に知っていた。「社会が豊かになると、人の嗜好は“軽く、やさしく、個人的”になっていく」つまり、経済成長が進む中国には、必ず低アルコール市場の可能性が開く瞬間が来ると読んでいた。しかしそれは同時に、既存の商品をそのまま持ち込んでも通用しないということも意味していた。

|2| 過去の失敗から学ぶ:“中身が見えない〟不信感

当時、中国市場での日系ブランド(KIRIN氷結など)の失敗は広く知られていた。価格の高さも一因だったが、それ以上に大きかったのが、「缶入り=中身が見えない」ことへの強い不信感中国の消費者は「何が入っているかわからないもの」に対して極度に慎重だった。だからこそ、デザインで解決すべき本質的な課題は、「信頼される見た目を作ること」=可視性と安心感の演出であると、私たちは定義した。

|3| “模倣されるデザイン”を設計する

目指したのは、“みんなが真似したくなるような”王道感のあるデザイン。

・ カクテル=南米=陽気で自由 → 商品名は「RIO」
・ 曲線的なガラスボトルで、手に取る感触と可視性を両立
・ 色彩は鮮やかで、クラブでも目立つ映える設計
・ ラベルは旗のような構成で、ブランド名を引き立てつつ動きのある印象を創出

重要なのは、奇抜ではなく「今まで存在したかのような安心感と、今っぽさの共存」。この佇まいが、“カテゴリーリーダーにふさわしい顔”を形づくった。

|4| ターゲットは若年層だけに絞る

RIOのターゲットは明確だった:「成人したばかりの若者」、低アルコール=入門的存在。その特性を活かし、

・大学でのミスコンイベント主催
・クラブでのプロモーション
・ドラマへのプロダクトプレースメント(PPL)など

若者の感性とライフスタイルの中に、自然に“RIO”が入り込む戦略を徹底した。

|5| 4年でNo.1へ――“カテゴリーを創った〟という成果

こうして2012年の挑戦は、2016年に結実する。RIOは、カクテルカテゴリーで中国No.1ブランドへと成長。現在に至るまでその地位は揺るいでいない。もちろん、デザインだけで達成できたことではない。製品開発、価格戦略、販売ルート、マーケティングの全方位にわたるRIO側の執念と実行力があってこそだった。私たちは、その軌跡の一部を“見えるかたち”で支援できたことに、誇りと学びを感じている。

|6| 中国企業の“実行力〟に学ぶ

このプロジェクトで最も印象的だったのは、中国企業の意思決定と実行の速さ、突破力である。彼らは、「今やる」「リスクも受け入れる」「結果が出るまでやめない」。この姿勢に、私たちは多くの刺激を受けた。同時に、ブランディングとは「時代の空気を捉え、市場を共に創る営み」であることを、異文化との協働の中で再確認することとなった。